主人公の青年が記憶障害を抱えたヒロインとともに、過去の出来事をたどるアドベンチャーゲームです。
本作をお届けするのは、「流行り神」シリーズなどクオリティの高いアドベンチャーゲームを提供する「日本一ソフトウェア」と、シナリオライター・ゲームデザイナー三人が在籍する「テクスト。」。
対応機種はPSP® (PlayStation®Portable)。いつでもどこでもお気軽に、けれど「ライト」ではない、濃密なプレイ体験をお約束します。

僕の前を歩いていた彩野さんは、足を止めて尋ねた。
僕は彩野さんの横に並ぶ。
僕たちの足が止まる。
彩野さんは僕の顔をのぞき込む。
目が合う。本当にどうでもいいことだよ、と僕は視線をずらして答える。
僕は微笑む。あるいは微笑むことができるように顔の筋肉を動かそうと努力する。
微笑むことができたのかはわからない。
彼女と目を合わすことがまだ、できない。
「わかった」
と彩野さんは独り言のように言葉を紡ぐと、再びゆっくりと歩き出した。

一歩、二歩、三歩、四歩、五歩。
ゆっくりと歩く。
そんな風にしてあれから5年が経ったんだ。
何も変わってないと思うんだ。
「直哉くん」
もしその彼女が。
「もしその彼女が『あなたの場所』に帰ってきて、また同じようにあなたの元を離れようとしたら、今度はしっかりと腕を掴んであげてね」
僕は頷く。
「忘れないで」

「新しい、記憶が、留めておけなくなった」
「そう。手帳の一番はじめのページに書いてあるんだっけ」
「うん。『私には17歳の頃から先の新しい記憶ができない』ってある」
「一言で言うと、そういう事。事故の衝撃で、脳の記憶を管理する部分に傷を受けたんだ」
「じゃあ、もうちょっと詳しく、『ひとこと』で言わなければ?」
「詳しく説明するなら、彩野さんが事故で損傷を負った脳の部位は海馬、その周りの海馬傍回(かいばぼうかい)」
「扁桃体(へんとうたい)、内嗅皮質(ないきゅうひしつ)」
「……多いね」

「覚えてない。だから、私は17歳じゃない。いま、私の目の前にいる直哉くんは23歳なんだ」
「そう。僕はもう学校を卒業して、大学も卒業して、働いてる。名刺も――持ってる」
「17歳じゃない。クラスメイトじゃない。私も、23歳」
僕は頷く。
彩野さんは瞼を閉じる。
間違いなく、今、彩野さんは苦しんでいる。
そしてこの苦しみはずっと続くのだ。
ずっと。
「覚えてない――そこから先の事は、覚えられない、覚えていない、か」
彩野さんはそっと瞼を開く。

- PSP® (PlayStation®Portable)でプレイ
- PlayStation®Store から、体験版のダウンロードが可能です。
- PC、または携帯電話でゲームのダイジェストを体験
- 日本一ソフトウェア公式サイトにてご案内しています。
あなたのための物語を。
もし、あなたが学生であれば、これはあなたの為のゲームです。
あなたが学生でなければ、これはあなたがいつか通り過ぎた道を辿るゲームです。
あなたが熟練のゲーム・プレイヤーなら、この「アドベンチャーゲーム」に、ほんの少しだけ懐かしい雰囲気を感じるかもしれません。
新しい手触りのゲーム、と言ってよいと思います。とはいえ、難易度はそれほど高くありません。
反射神経も必要ありません。あわててボタンを押す必要もありません。おちついて文章を読み、適切な選択を選び、またはつくりだし、諦めずにチャレンジすれば、あなたはエンドロールを迎えられることでしょう。
もりちかさん
「電撃マ王」や「週間アスキー」で活躍中のもりちかさんがキャラクターデザインを担当。
やさしくあたたかみのある絵柄はストーリーに寄り添い、各シーンを生き生きと描き出します。
もりちかさん(キャラクターデザイン・原画)
はじめまして。キャラクターデザイン・原画を担当させていただきました。
ゲームのお仕事ははじめてで、色々いたらぬ点があったかとは思いますが、こうして形になってなんだか感無量です。
仕事を引き受けてからシナリオの深沢さんや荒川さんのことを知ったのですが、後で調べてみると知る人ぞ知るという方のようで、これはとてもすごいことを引き受けてしまったのかもしれない、と畏れ慄いてしまいました。
私自身ゲームの全体像を把握していないので、はやくゲームをしてみたいと思っています。皆様もぜひ体験してみてください。
深沢(企画・シナリオ・ゲームデザイン)
はじめましてこんにちは。本作の企画制作を担当しました、ディレクターの深沢です。
マスターアップもなんとか終え、最近はやっと落ち着いて平和になってきました……と書きたいところなのですが、こうしてWebサイトをつくっているような状態であり、発売前の比較的忙しい日々が続いています。
さて、今回こうして制作者サイドからコメントを書くにあたり、僕にとってこのゲームが何であるのか、あらめて考えなおしてみました。
ひと言で表すのはなかなか難しいのですが、「十年前にはつくれなかった作品であり、十年後つくることのできない作品」――要するに、このセカンドノベルというゲームは「今しかつくれないゲーム」に仕上がったんじゃないかな、そんな風に感じています。
十年前にはつくれなかった作品
「十年前にはつくれなかった作品」。こう書いたのには理由があります。
このゲームには元になった作品、「原作」があります。「True Color,」という同人ゲームです。
ゲームはちょうど今から十年前、2000年ぐらいから構想を練り始め、2001年、僕の所属する同人ブランドサイト LANGuex を立ち上げるのと同時に発表しました。
しかしその後、さまざまな理由があり「True Color,」の制作は停止。制作は無期限の凍結状態になりました。
その True Color, からさまざまな物語の要素を抽出し、いわば果たせなかったものを果たすために生まれたのが本作、セカンドノベル、という事になります。
「つくれない」理由
ちょっとややこしくなって来ましたね。ここまでの「あらすじ」をまとめてみましょうか。
1.『セカンドノベルには原作がある』、2.『その原作は十年前に考えていた「True Color,」という作品だった』、3.『True Color, の開発は制作途中で停止した』、4.『True Color, で果たせなかったものを果たすために「セカンドノベル」は生まれた』。こういう事になります。
ではなぜ、「セカンドノベル」は「十年前にはつくれなかった作品」なのでしょうか。
『True Color, を完成させるために必要だったモノ(ヒト・モノ・カネ)が当時は足りなくて、今は満たすことができるようになったから』と思われるかもしれません。
それは少し正解で、少し間違っていると言えます。
物語と身体性
仮に十年前、True Color, を発表した直後、時間と精神的余裕があれば、当時頭に描いていた「True Color,」というゲームを完成までに導くことは可能だったと思います。
けれど、その時に制作仕上がったであろう「True Color,」は、今の「セカンドノベル」とは全く異なったものになっていた事でしょう。
セカンドノベルは True Color, ではない、という事です。
なぜでしょうか。それは僕のつくる作品が「不完全」であるからと言えます。
或いは、こう良い変えてもいいでしょう。
僕のつくるゲームは自分の身体性と深く結びついている、と。
物語と身体性
やはり十年というのは、長い月日なのです。
当時考えていた物事や事象、自分を取り巻くもの。それらは「今の自分」とは異なります。
「時間が経った。今の自分は、当時つくろうとしていた True Color, をつくれない」
――という事、なのです。当たり前と言えば当たり前なのですが、この考えを認めることで、僕は今回のプロジェクトを前に進めることが出来たのだと感じています。
だから、今、あなたのお手元にお届けする「セカンドノベル」は、「今しかつくれないゲーム」なのです。
それと同様に、もし十年後の自分が本作をつくることになったとしたら、今のセカンドノベルとは同じにはならないだろうな、僕はそんな風に考えています。
少し、長く語りすぎてしまいましたね。
結局の所、僕の伝えたい事はすべてゲームの中に込められています。発売日を過ぎたら、「セカンドノベル」は泣いても笑っても「作成している」ゲームではなく、「作成した」ゲームとなります。この作品は僕の手から離れ、プレイヤーの手に委ねられることになります。
僕も、セカンドノベルから、お別れをしなくてはいけません。
今の気分は、嬉しいような、残念な様な、少し不思議な気分です。 或いは、親としてこの作品に関わっていたつもりが、気が付いたらこのゲームに自分が育てられていた状態になっていた、そう言えるかもしれません。だから僕も、もう「親離れ」しなければいけません。
ここまで読んで頂きありがとうございました。
あなたが、「物語」を手に取ってくれることを祈っています。
(2010/07/23 深沢豊(LANGuex / flagyx))
後日公開予定です。
※再生ボタンを押すと音が出ます。
- 製品名
- セカンドノベル ~彼女の夏、15分の記憶~
- メーカー
- 日本一ソフトウェア
- ジャンル
- 青春-自己-探索-ミステリアス-認識-アドベンチャー
- 対応機種
- PSP® (PlayStation®Portable)
- メディア
- UMD
- プレイ人数
- 1人
- 発売日
- 2010年7月29日(発売中)
- メーカー希望小売価格
- 4,980円(税込5,229円)
- 必要容量
- 640KB以上
- ダウンロード版配信日
- 2010年7月29日(PlayStation®Store)
- ダウンロード版販売価格
- 4,000円(税込)
- CERO年齢区分
- 「B」 (12歳以上対象)
- 予約特典
- ファーストノベル文庫(ダウンロード版に予約特典は付きませんが、小説の内容はゲーム内から閲覧可能です)
本作を作成する上でさまざまな影響を与えた資料(主に脳関連)をご紹介します。
読み物としてもおすすめですので、ぜひぜひ!
(深沢)
- NHKスペシャル 驚異の小宇宙 人体II 脳と心 第3集 人生をつむぐ臓器~記憶~
- 「読み物」と言っておいてのっけからビデオですみません。
とても多くの人に影響を与えたと思われる番組ですが、本作の源流もまさしくこの作品にありました。
- 脳のなかの幽霊(角川書店)
- 本作を作成する直接的な影響となったのが本書を読んだことでした。
(ちょっと裏話)過去作成した「書淫」という作品でEMDRを出したのですが、それと相通じるような眼球運動の事例が本書にも少し出てきます。
書淫ではちょっとしたアニメをWebに出していたのですが、下のアニメ、縦の棒が左右に動くところは EMDR をイメージしていたりします。
- 脳のなかの幽霊、ふたたび(角川書店)
- 上の本の続編的な表題ですが「脳のなかの幽霊」の内容をよりやさしくかみ砕いた版という感じです。なお、本のエッセンスを凝縮したようなTEDの講演をWebから観ることができます。おすすめです。
- 妻を帽子とまちがえた男(早川書房)
- サックス先生の書籍は読み物としても面白いです。
- 火星の人類学者(早川書房)
- 今となっては考察がやや古い部分もあるのですが、先生の視点は優しく、興味深いです。
WebではTEDの講演が公開されています。こちらも書籍そのままの優しい語り口調でおすすめです。 - 共感覚者の驚くべき日常(草思社)
- 共感覚についての書籍はかなりあるのですが、その中でも本書は特に興味深いものでした。
- 記憶の亡霊(白揚社)
- 実例として。ただしちょっと内容に偏りがあった気がします。
……と、ここまで紹介しておいてなんなのですが、「セカンドノベル」の内容はあくまでゲームでフィクションです。現実の事例を導入している作品、というわけではありません。
「15分の記憶」というサブタイトルからして、実在の症例と照らし合わせるとやや誇張気味と言えます。これは、「現実としては『ほぼ』あり得ないが、物語として面白いからこの展開」にしている部分が存在していると言うことです。
この点については、ご了承の上、プレイして頂ければ、と思います。
最後に、記憶障害患者としてよく書籍に登場する HM(ヘンリー・M)氏ですが、2008年に亡くなられました。
その後特別なプロジェクトが立ち上げられ、昨年は、脳をスライスする様子がライブストリーミング中継されました。これについては賛否両論が巻き起こったようです。
謹んで哀悼いたします。
(後日公開)
- お近くの店舗またはネットショップにてご購入ください。
- 予約特典のファーストノベル文庫は実際に手に取れる文庫本です。プレミア率が高くなると思われますので、ご予約を強くおすすめいたします。
- ショップによりさまざまな購入特典が独自に設けられています。購入特典は公式サイト下部のバナーにてご案内していますので、検討の上ご購入ください。
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